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ナショナルアイデンティティー by 堀越 敏晴

中校生のころ封切られた映画に“素晴らしき飛行機野郎”というのがありました。

Air Craftという呼び方がぴったりの空飛ぶ凧といった感じの黎明期の
飛行機を駆ってドーバー海峡を横断するレースの話です。
イギリス、フランス、アメリカ、イタリア、ドイツ、日本、各国それぞれの飛行機と
パイロット達のお国振りキャラクターがユーモアたっぷりに描かれていました。
日本からは石原裕次郎がカミカゼみたいな日の丸鉢巻き姿で出演していましたね。

肝心の飛行機、映画ではイギリスはアブロ、フランスはブレリオ、イタリアは
フィアットでしょうか、当時の飛行機のレプリカっぽいのが、CGなどない時代
なので実際に飛ぶモノを作ったのでしょう、
個性的なデザインの機体がたくさん出てきます。
ゼロやグラマンのプラモデルを作りながら育った私は、人とモノ、デザインにも
その国を構成する民族の個性、風土が色濃く反映されるんだなと感じたのを覚えています。

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さて、デザインの話を書くことになっているのですが、最初は色の話です。

インダストリアルデザイナーと言えども、必需品のひとつに大日本インキ、DICの
色見本があります。
プラスチックケースに入ったおなじみの細長い色見本三冊組みです。

その姉妹品でしょうか“日本の伝統色”“フランスの伝統色”“中国の伝統色”があります。
三冊組み色見本の次にリリースされたのもこの順だったと記憶しています。
これらの伝統色シリーズ、使うつもりはなくても手にとって日本語の奥ゆかしい色名
などを知るのが楽しかったものです。

あらためてDICさんの開発に聞きますとフランスの伝統色は青が充実しているとのこと。
確かにブルー・アジェール、ブルー・シエルなど見本の前半にたくさんのブルーがあります。
日本人の色彩研究家から借りたフランスの布地や陶器など実物を見ながら調色したのだそうです。
また、中国の色というとケバいイメージがありますが、意外とシックなくすんだ色が
多いのに気づきます。
これは中国の研究者が選んだ伝統工芸品などからの色が反映されているとのこと。
土壁の赤という解説のある“土紅”、服に使われた“乳灰”というグレイなど、色名と
ともに見ていくと確かに中国を感じるから不思議です。

生活の道具や住まいのカタチは暮らす風土、素材に影響されます。
しかし、それらはその国、地域以外の他者の目があってはじめて認識されるものです。
明治時代のお雇い外国人フェノロサによる日本の美術品評価の例を出すまでもなく、
その国の人間にとっては日常見慣れたもの、もともと鑑賞の対象でなかったものに着目し、
評価出来るのは往々にして外国人です。

そこで、それぞれの国らしい産品、工業製品のカタチを例に、民族固有のカタチ、
DNAといったもの、ナショナルアイデンティティーと言ったら良いのでしょうか、
私の感じたままを述べてみたいと思います。

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堀越 敏晴/Toshiharu Horikoshi
プロダクトデザイナー/Product Designer

有限会社シーダブリュエス/代表取締役

Mail:horikoshi@c-workshop.jp
URL:http://www.c-workshop.jp

プロフィール:
日本コロムビア(現 デノン)(株)ニトムズ(株)クリセンを経て、
2002年にCREATIVE WORKSHOP/シーダブリュエス(CWs)設立。
生活用品、収納家具、工作機械などの分野で、デザインと企画・商品開発コンサルテーション。
その他、地域産業活性化プログラムを手がける。                

更新日:2012.01.06 (金) 07:59 - (JST)