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ナショナルアイデンティティー2/イギリスのかたち by 堀越 敏晴

住まいや暮らしの道具のありかた、かたちはその風土、気候に根ざす素材に影響されます。

それらの特色はその国や地域以外、他者のまなざしによってはじめて認識される性質のもの。
その地で暮らす人間にとっては日常見慣れたもの、もともと鑑賞の対象でなかったものに着目
し、評価するのは往々にして外国人だったりします。
これまでたくさんの外国製品を目にしてきて、それぞれの国で生みだされた産品、工業製品の
カタチを例に、民族固有のカタチのDNA、造形のクセ、ナショナルアイデンティティーとで
も言える“何か“を私の感じたまま述べてみたいと思います。

顕著になったのは1970年代以降でしょうか、アメリカを先頭に世界的規模でモノを売る
グローバル企業の出現とともに、自動車は言うまでもなく、家電や生活用品など身近なものの
デザインにも、新たなインターナショナルスタイルが現れてきたのではないでしょうか。
流行と言ってしまえばそれまでですが、私はデザイナーの関与する領域が増えたこと、プラス
チック成形品の進化と汎用化、そしてインターネット出現以前ですが、国を越えてのデザイン
情報の流通が誘因だと考えていて、80年代、90年代と年を追って国や地域ごとの“個性”、
“らしさ”が薄れてきたと感じています。

ここで言いたいのは、あくまで日本人の目で見て、という注釈つきだけれど、それぞれの国や
地域ごとにカタチやデザインの特色が明らかだった時代を振り返り、その本質について考えを
深めてみたい、そうすることでデザイン創作と表現について新たな知見が得られるのではない
かという意図からです。

今回はイギリスです。
産業革命、インダストリー発祥の国なのに、そのインダストリーの名だたるブランドは、アラ
ブ、中国、はてはインド資本などに買われてしまったといいます。イギリスのインダストリー
は終焉し、人々のノスタルジーの中に残るだけ。今は金融業が中心らしい。資本主義の行き着
くところ、産業はなくなるのかと憂いてしまいます。

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さて、デザインの話。ウィリアムモリスを始祖として、イギリスのアールヌーボー、近代デザ
イン史に登場するのはグラスゴーのマッキントッシュ。その謹厳で静謐なデザインはいつ見て
も心に響くのですが、モリスも含め、イギリスのかたち、造形はどこか線が細く華奢ですね。

昨年は北部の湖水地方はじめコッウォルズ、バースなど周り、ロンドンでは久しぶりにロイヤ
ルアルバートミュージアムにも立ち寄りました。
あらためて思うのは石造り、レンガ造りの重厚な建物とは裏腹に、家具、什器などすべてが
小ぶり、素材を節約してか質素なこと。しかし単純に小ぶりではなく、何というか心地よさを
残した小ささ。家具から自動車まで何から何まで大ぶりでデラックスな新大陸アメリカに渡っ
た親戚とは大違いです。

そして特有の造形と感じるのはユニークなアール(曲線)です。手で描かれ、手で磨かれた
ような大きなアール、そしてえもいわれぬ楕円形でしょう。
マッキントッシュのアーガイルチェア、白い楕円テーブル、これは力学的な背景からでしょう
が、スピットファイア戦闘機の楕円翼。これは同時代、ドイツや日本にも楕円翼の軍用機はあ
りましたがスピットファイアのそれがいちばん美しいですね。
大きなものでは蒸気機関車マラード。30年代、アメリカ発で世界中に流線型機関車が流行し
ましたが、ボディを流線型で覆っただけでは飽き足らずサイドを大きな弧で強調しています。
こんなラインはイギリスだけでしょう。そして60年代、特産品だったスポーツカー、オース
チン・ヒーリーのグリルそしてサイドライン。イギリスではローリーというそうですがトラック
なども楕円の要素入りオバさん顔。
オーディオの世界ではかってのQUADのスピーカー。とにかくアールと楕円のフォルムが目
に付いて仕方がないのです。

近代からは女王の治世が長かったからというわけではないでしょうが、大英帝国という重厚な
国家イメージとは異なり、その手入れの行き届いたとでもいえる優美なラインを持つデザイン
は押し並べて女性的だと感じるのは私だけでしょうか。

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堀越 敏晴/Toshiharu Horikoshi
プロダクトデザイナー/Product Designer
有限会社シーダブリュエス/代表取締役

Mail:horikoshi@c-workshop.jp
URL:http://www.c-workshop.jp

プロフィール:日本コロムビア(現 デノン)(株)ニトムズ(株)クリセンを経て、2002年
にCREATIVE WORKSHOP/シーダブリュエス(CWs)設立。生活用品、収納家具、工作機械な
どの分野で、デザインと企画・商品開発コンサルテーション。その他、地域産業活性化プログ
ラムを手がける。

更新日:2012.01.06 (金) 08:09 - (JST)