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NEXT STAGE(デザイン事務所の取組み) (職場環境と新たなデザインビジネス) by 松本 有

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フォルムは、1984年10月に「フォルムデザイン有限会社」として設立して
から、来年で24年になります。四半世紀というとても長く聞こえるのですが、私自
身は、あまり(全く)年月が経過した実感がありません。とは言っても、その時幼
かった娘は、近じか母親になろうとしていますので、一瞬と思っているのは自分だけ
かもしれません。

今年の10月20日から、デザイン開発部と総務を、長年慣れ親しんだ市川の事務
所から、JR海浜幕張駅を降りてすぐそばにある「WBG(ワールドビジネスガーデン)」
に移しました。新しい事務所になって1ヵ月が過ぎましたが、引っ越しの後片付けや
パーティーなどのイベントのため、まだ、落ち着いて居ることがほとんどありません。
このままでは、年明けまで開けられない段ボール箱が、たくさんありそうです。

さて、24年前に住まいである県営住宅の一室(6畳)を仕事部屋として始めた会社
ですが、半年して習志野市に一軒家を借り、5年ほどして市川市の小さな工場だった
建物(簡易プレハブ建築で、大形エアコンを稼働させても夏暑く冬寒いという、環境
にも人間にも厳しい所でした)に移転しました。延べ面積は330m2あり、外観や暑
さ寒さを除けば様々なことが自由にできる環境でした。その自由さに魅力を感じて
19年近くもいることになったのです。ただ、外見よりも中身と思いつつも、デザイ
ンを仕事にしていて、「外見は何よりも人の印象に強く残り内容まで判断される」と
分かってはいたのですが、ついつい仕事の中身を優先してしまいました。

そのような中で、8年ほど前から良い仕事をしてもそれに見合うものが得られない
苛立ちと、社員みんなが永く勤められる会社創りが、この環境の中では困難と思える
ようになりました。特に、当社は、デザイナーの半数が女性であるという事から、
より良い働く環境づくりはとても重要なことでした。厚生労働省が唱えている理想的
な働く環境は、大企業なら出来ても大半の中小企業ではとても難しいと思われます。

ましてや、日本におけるフリーランスのプロダクトデザイン事務所は、平均人員が
3人を切るとさえいわれています。このような状況では、厚生労働省が示している、
制度や設備を自ら備えるのは現実的ではありません。しかし、私たちは、永く勤めら
れるデザイン会社にするために、女性の労働環境を整えることが必要だと感じていま
した。それには、二つの方法があり、一つはフォルムが、今すぐ大企業になること、
もう一つは、そのような環境・設備がある所に、事務所を移転することです。

女性が働く中で(共稼ぎが多い中、男性も同じような問題を抱えているのが、現状
です)結婚、出産、育児の問題が、解決していかなければならない事です。特に、
出産、育児は、女性への負担が大きいので、ここを解決しないことには、永く勤めら
れる会社創りは、出来ません。


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先ほどの選択肢の中で、私たちは後者の方を選びました。何故なら、実現性が高く、
頑張れば直ぐにでも実行が出来そうだったからです。調べてみると、ビジネスビルに
よっては、働く人のための様々なサポート設備(コンビニ、レストラン、カフェ、
銀行、病院、薬局、マッサージ、フィットネスクラブ、託児所、等々)を備えている
ところがあるという事が分かったのです。とはいえ、このようなオフィスビルに移転
をするには、大きな資金と経費が掛ることも分かりました。そして8年前の私たちに
は、これをひねり出す方法が、見いだせなかったのです。また、いい環境への投資が、
次の大きなビジネス環境を生み出していくことに気づきませんでした。

今年に入り当社が支払っている倉庫代がバカにならない金額だということが分かり
ました。当社でデザイン開発をし、海外に生産を委託して販売している物の在庫や、
同じく自社開発でメンテナンスまで担当している郵政向け集配ボックスの補修パーツ
など、いつの間にか市川のデザイン事務所の家賃を上回る倉庫代となっていたのです。
それは少しずつ増えていったので特に問題にもならず、通常でしたらそのままの状態
でいる予定でした。

しかし、「倉庫代にこんなに払うのはもったいないぞ。倉庫を解約し、品物は市川
の事務所に移して、デザイン部門がもっと環境のいいところに移転したらどうだろう。」
と考えるようになったのです。実際倉庫に品物を置いておくと、欲しい時に品物がすぐ
手に入らない。(前日の3時までに出庫依頼の連絡をして、翌日車で取りに行かなけれ
ばならない)

また、入庫や出庫の度にデバン料という費用がかかる。出庫にかかる人件費や時間
ももったいない。というさまざまな条件を考えても一刻も早く移転しようと決意した
のです。

当然理想的な職場環境を意識して、事務所選びが始まりました。子育てしながら働
ける環境、病院や銀行、レストランもあり、展示会など新しい情報の収集が容易にで
きる場所として、幕張メッセにほど近いWBGに移転を決めたのです。

そして、ビジネス環境への投資は、働く者への良い影響だけでなく、フォルムが計
画をしている次のステップへ進むために必要な、人材確保へと結びついていくことに
なるのです。

これは当り前になった物事の視点を変えることにより、新たな工夫と方法が浮上し、
自らを大きく変えることが出来ると実感した出来ごとでした。


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さて、OXO(オクソー)社とのデザインビジネスについてご紹介します。

それは、4年前の1通のメールから始まりました。
「初めまして、OXOです・・・」というメールで、日本向けの商品を開発するデザイ
ン会社を探しているということでした。

OXO社はニューヨークにあるキッチンブランドの会社で、ユニバーサルデザインの
考えに基づいた製品開発をしていることで有名でした。ニューヨークのスタッフが、
日本のデザイン会社をリサーチの為数回来社をした後、フォルムと契約に至りました。
その後、台風の日に来社したOXO社アレックス社長とのミーティングで、簡単に開け
締めできる密閉容器『ポップコンテナ』の基本的なコンセプトや構造が決まりました。
また企画当初は日本だけでの販売となっていましたが、これは世界中で使ってもら
えるワールドワイドな商品にしましょうと提案していきました。

この時から3年、市場調査や主婦の方やプロの料理人の方々へのリサーチ、いろい
ろな容器を購入してのテスト等を重ね、デザイン開発を繰り返し、やっと製品が出来
上がり、発売にこぎつけました。2007年3月にシカゴの「International Home+
Housewares Show」 で世界初のお披露目となり、同年9月銀座三越で日本初デビ
ューとなりました。 2ヶ月で100万個以上の注文を受け、生産が間に合わないほど
でした。

当初、OXO社から出されたポップコンテナのデザイン開発の取引条件は、フルロイ
ヤリティーでした。3年間デザイン料や設計費用等すべて持ち出しで、当社のような
小さなデザイン会社にはとても大きな負担となりました。しかし、投資なくして利益
は得られないと最初から覚悟したことだったのです。ただ、これはむやみに投資した
のでは無く、市場性の予測を立てて判断をしたからです。
(とはいってもかなりの決断を要しました)

さて、苦労に苦労を重ねたポップコンテナは、おかげさまで国内外の多数の賞を
いただきました。


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2007年
9月 財団法人日本産業デザイン振興会Gマークを受賞
10月 財団法人大阪デザインセンター選定グッドデザインを受賞
2008年
1月 米国Good Housekeepingの姉妹誌Quick and Simple の
“ 2008年度Quick & Simple Best New Product Awards “を受賞
1月 米国ニューヨークのローカル新聞のウエブサイト
“20 Helpful products for the new year“を受賞
2月 ドイツの “ IF universal design award 08 “ を受賞
3月 ドイツの “ reddot design award 08 “ を受賞
7月 アメリカの “ International Design Excellence Award 08 “
ブロンズ賞を受賞
10月 イギリスの “excellence in housewares award 08 “ を受賞

そして、これがご縁で+f(プラスエフ)というOXOアイテム専門のネットショップ
も立ち上げることができました。OXO商品を手がけたデザイナーの「ワンランク上の
キッチンライフ」をテーマに展開中です。
http://www.plus-f-shop.com/

デザイン及びデザイナーはとても大きな可能性を秘めています。そして時代ととも
にデザインに求められる要求は変わってきています。変化に即応しながら、新たな事
に挑戦するのを恐れず、出来ることは貪欲にこなし、そして決してあきらめないとい
うことが大切なのだと痛感しております。



松本 有/(マツモト タモツ)
e-mail:f@form.co.jp
URL:http://www.form.co.jp

プロフィール/
(株) フォルム 代表取締役社長、可能貿易(上海)有限公司 常務副総経理、総合デザイン開発を行い国内外で活躍中。ものづくり大賞審査委員、EU-Japan Design Competition審査委員、東北工業大学デザイン工学科兼任講師、日本大学芸術学部兼任講師。JIDA(社団法人日本インダストリアルデザイナー協 会)会員、財団法人日本産業デザイン振興会会員、日本デザイン学会会員、日本人間工学会会員、Gマーク、IF universal、reddot、IDEA等多数受賞。

更新日:2012.01.06 (金) 08:22 - (JST)