lrt_09|JIDA東日本ブロック                     

「LRT デザインコンテスト2009」優秀作品展示、及び表彰式

日時:2009年12月5日(土) 

場所:東京大学本郷キャンパスの工学部2号館
後援:JIDA
協力:東日本ブロック 乗り物デザイン研究会




当コンテストは、昨年、横浜で開かれた「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会」
のーイベントとして始まったものである。この大会は、今の自動車社会に対する様々
な問題点を定義し、その問題の解決と、本当の暮らし易いまちづくりのために必要な
身近な交通機関について、全国から集まった研究者やメーカー、行政の担当者、はた
また政治家までをも巻き込んで考えてゆこうというイベントである。しかし、その
イベントですら専門性の高い研究者の発表に終始してしまう現状を打破し、広く一般
市民を巻き込んでしまいたいという思いを受けて、その仕組みの一つとして始まった
のが当デザインコンテストである。




私自身が、ひょんなきっかけでこのコンテストの取りまとめ役を引き受けてしまった
ことで、前々から思っていた「まちとひと」の良い関係について自身の短くないドイ
ツ滞在がそのベースになっていて、そこからこのコンテストへの思いというものが生
まれてきたのだと感じるのである。それは、先進国として欧米諸国と並ぶ経済力を持
つ我が国が、その象徴的なものとしてしばしば取り上げられる新幹線に代表される高
い技術力に裏付けられた緻密なダイヤでの高速運行や、定時運行の正確性や安全性に
よるものであることは誰の否定するものではない。そしてそれを私自身も否定するも
のではないことを先に断った上で敢えて言いたいのは、一つ一つの街の持つ魅力を考
えた場合、その新幹線などの発達した戦後の高度経済成長時代に失ったものの大きさ
は計り知れないものがある。それは、数字で表せるような単純なものではなく、欧州
諸国のように中世から存在する数々の街の魅力を大切にしてきたゆえに、今でもそれ
らを大切にする心や普遍的な美しさに対する人々の心のうちを、私達多くの日本人は
失ってしまったような気がするのである。

それは、身近な交通機関にも言えることで、戦前には日本各地に存在した路面電車も、
当時としてはより便利で快適な自動車に飲み込まれていったのは周知の事実である。
しかし、ドイツなど縮小こそすれ廃止を免れた数多くの都市は、その都市に住む市民
の利便性や快適性は、技術の進歩もあってLRT が市民の足として、まさに今その魅力
が開花している気さえするのである。私達日本人は、世界から多くのものを受け入れ
て、それを日本に合わせてアレンジしながら自らのものとして吸収してきたのである
が、その中で少なからず経済性を最優先にしたものがあちこちで見受けられるのであ
る。それが今日の日本の経済力の原点でもあることは事実であるが、残念ながらそれ
以外の目的意識を私達の住む街から、ほとんど見受けられないのもまた事実である。

交通機関に関して言えば、私がドイツで暮らした時の市民目線での日々の生活を思え
ば、人口24万人程度の中規模都市にも関わらず、手軽な移動の自由が極めて恵まれ
た街であったと言えよう。それは、トラムがそこにあったからでもあるのだが、その
トラムというハードに対して乗客が受けるサービスであるソフトに関しても、中心商
店街のトランジットモール、ゾーン制運賃、優先信号、信用収受、効率の良いダイヤ
など良く出来ていると思ったものである。そして何より感じたのは、車両だけではな
くシステムとしてトータルに考えられた利用者が使い勝手の良いデザインの存在があ
ったからである。




さて、そんな自身の経験を基に運営と審査を受け持ち、昨年から始まったデザインコ
ンテストは、とかく専門的になりがちな学術会議然としたものから、一般市民参加形
の開かれた議論の場の提供に一役買う意味でも、意味のあるコンテストではないかと
考えるのである。とかく車両のデザインと言えばスタイリングに終始するような「格
好の良い」デザインがもてはやされたりするが、当コンテストは、あくまで市民が快
適に住まうための道具としてのLRV 車両や、気軽に乗れる、まちづくりに貢献出来る
LRT システムの提案を歓迎するものである。我が国も狭いながらも全てが異なる個性
を持った街が集まっている。その個性を発見して、市民が我が街を誇れるようなしく
みを持ったLRT がこれからは必要であり、そのしくみを作れるのはデザインの力であ
ると確信するものである。

しばしば語られるデザインの経済に対する功績は、このLRT に関して言えば、直接的
な効果より、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、魅力的な街にするための1つ
の手段としてであり、その結果多くの人々が利用し、中心市街地が活性化したり、家
に閉じこもっていた高齢者が外出したり、また、自動車による移動が減り、市街地の
渋滞が減少したりと、様々な経済効果を総合的に見た時に、初めてその真価が理解出
来るというものである。

これからも続いて欲しいLRT デザインコンテストであるが、JIDA を始め、多くの支
援企業に支えてもらいながら、着実にその歩みを進めてゆき、今後も多くの皆様に共
感を持って頂いた上でご支援を賜ればと思うものである。

2009-12-8
■レポート:井上晃良

更新日:2012.01.06 (金) 11:43 - (JST)