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IDの終わりと再生 by 大倉冨美雄(元理事長)

理事長時代を振り返って、いろいろの反省があります。


一番重要なことは、時代の転換が急激なのにデザイナーの意識構造がそんなに変わら
なかった、というより変えられなかったということです。

当協会だけでなくデザイナー全体の不幸は、この社会変換の舵取りは普通のデザイナー
の能力を越えているのに、自分たちで何か出来ると思い込んで来たということです。
実はここに自己欺瞞があって、出来なくてもやるしかないじゃないか、という納得で
やってきたということです。

もちろん、それしかなかったし、今だってそれしかない。そこに私の反省もあります。
それは、もっと個人を主体とした産業構造や就業システムの提案に賭ければよかった、
という反省です。
そのためには今の時代は、独裁は避けるべきにしても、先読みの出来る者には大幅委任
して核心的な事業実行をしなければ間に合わない事態にまで追い込まれている、
ということも意味していますが。

このドラスティックな大不況の底にあって、かなりの日本人は気がついてきたように思
われます。それに対する処方箋も見えてきたようです。
ですが、それは直接にはデザインの改革ではなく、政治の、行政の改革、地域の活動で
あって、それによってデザインの改革も浮かんでくる、というような構造です。

これまで通りの資本力と既得権力による社会構造のままではもう日本はやれない、
ということです。


自分を大切にし、人間にこだわることがデザインの復活を呼ぶ

振り返ってみれば、ぼくらは出来上がった社会構造を当たり前のこととして甘受してき
ました。
それは右肩上がりの高度成長に乗ったまでで、それが日本人市民の本当に幸福な生活を
目指すものかどうかは一切問われなかったのです。それは大企業が悪いのでもなく、
一概に行政の責任にしてしまうことも出来ません。
むしろ、国民全体がよかれと思っていたことに大きな欠陥があったということであり、
その予感があったにせよ、小さくても自己から行う改革運動を放棄し、忍従に伏したのは
国民自身だったのですから。

社会的にデザインを語るとき、従来路線の上で語っていると、見えてきた社会構造の変化
からの土俵に乗ることが出来ません。それなら、まず「作家デザイナー」になって戦う方が、
これからの社会は認めてくれるでしょう。
これからIDを語るということは、自分を大切にし、人間にこだわり、そこからの新しい
経済構造の中の新しい職業の創生に加担するのだという気持ちで、その仮説を実行するので
ないと意味がないと思います。つまり、IDの終わりと再生です。


7月3日(2009)に、こういう観点から討論会を開きますので、JIDA会員の参加も切望
いたします。
(於:日本建築家協会JIA館1F建築家クラブ 18:30 
テーマ「近隣分野とのコラボレーション」新創業デザイン・シリーズ①)

また私のブログも見てください。それは小説じみたことも書かれていますが、その目的は
デザイナー同士の話にするのでなく、市民、国民の目線で問題の本質をえぐりたいからです。
URL:http://www.okura-fumio.jp
mail:ok-design@kzd.biglobe.ne.jp

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大倉冨美雄(おおくら ふみお)/Fumio Okura

簡略履歴書:
電 機メーカー勤務後、ニューヨーク、ミラノで約10年活躍、東京にも事務所開設。Gマーク審査員、JIDA理事、各種公益団体委員、各種大学講師などを経て 1999年にJIDA理事長に就任、3期6年務める。静岡文化芸大教授歴任。現在、NPO日本デザイン協会理事長、恩賜賞全国発明表彰部会長、JIA日本 建築家協会デザイン部会長(関東甲信越支部)。勝見勝賞受賞。東京芸大卆。著書に「デザイン・シフト」(にっかん書房)、「デザイン力/デザイン心」(美 術出版社)

更新日:2012.01.06 (金) 08:18 - (JST)